再構造最適化せずに高精度計算をかける方法

TS・IRC上でG3やCBS-QB3計算がやりたくなったのだが、単にインプットファイルにG3やCBS-QB3と書いただけでは勝手に最適化されてしまう。

これを防ぐ方法が書かれていたのでメモ。

http://glab.cchem.berkeley.edu/glab/faqs/gaussian_tips.html#G3

 

具体的には、G3計算のMP2レベルからスタートさせるためにそれ以前の構造最適化を済ませたchkファイルを用意して読み込ませればよいらしい。なお、DFTで計算した結果を用いる場合はG3B3にしなければならない模様。

# G3B3(startmp2) Geom=allcheck

と入力したところうまく計算が始まった。

学会に参加した

渡米して初めて学会に参加した。ちなみに町から出るのも渡米後初である。

ポスター発表ではあるものの、精神的負担は結構なものだった。全て英語で発表しなければならないのは厳しいものがある。絶対に発表中に言葉が詰まると確信していたので、ポスターにそこそこの分量の文章を入れて読み上げるだけでどうにかなるようにデザインした。

 

学会は4日間に渡って開かれ、初日は午後7:00から深夜11:00まで、その他の日は午前8:30から深夜11:00まで続く。特に午後9:00から開始のBanquetが非常に良く、ビールやワインが飲み放題なので、毎日3本程飲んでほろ酔い気分になった挙げ句、いろんな人間に絡んでいた。

 

それにしても、アメリカという国はものすごいなと感じる。世界のトップをひた走る指導的研究者が集まり、今後の分野の方向性を変えるような未発表データを惜しげも無く発表しているのを見ると日本に留まってても置いていかれるなと感じてしまう。特に現在自分の取り組んでいるテーマは主にアメリカを中心に回ってる(というか現ボスをはじめとした2〜3人を中心に回ってる)ので、日本に帰ってからいろいろやるとなると周回遅れの内容になってしまうのではないかという恐れを感じる。

化学反応を引き起こすのは駆動「力」か?

 

Let's Drive "Driving Force" Out of Chemistry

http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ed082p827

 

古い論文だが、化学反応における自発的な変化に対して、Driving Force(駆動力)という言葉を使うのをやめようというお話。

著者はNorman C. Craig教授。ご専門は物理化学。

Norman C. Craig | Chemistry / Biochemistry | Arts and Sciences | Oberlin College

 

Driving Forceというと、なんと言えばいいのか非常にもやっとする概念だけど、一般に化学では反応を進行させる力みたいな意味で使われていて、反応を進行させるのがなんで「力」なのかと考えると更にまたもやっとするわけである。

そもそも減れば減るほど系が安定になる化学ポテンシャルの次元はJ/molなどのエネルギーを分子数で割った値であり、距離で割ってmolかけてあげないと力にならないわけです。つまり、力と言っても科学的な意味での「力」に分類できないからもやっとする。それに距離ってなんですか、と。

(分子反応動力学やメカノケミストリーでは実際に力が働いて反応が起きる訳ですが、少なくとも熱・統計力学の観点から化学反応を論じる際に力と言ってしまうと違和感が生じる)

 

まあ、実際の化学者の会話だともっと雑な感じが。

学会とかでは、

教員「この反応のドライビングフォースは何ですか?」

学生「ルイス酸による活性化です」

教員「分かりました、ありがとうございます」

みたいに、そもそも反応エネルギーを変えずに活性化エネルギー減らすだけの触媒反応レベルでも使ってるような印象が(※これは勝手なイメージです)。

 

で、軽く調べたところ、いろんな概念が実際にDriving Force扱いされている模様。

芳香族性がDriving Forcehttp://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja307213m

溶媒再配列がDriving Forcehttp://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja075975z

ひずみの解消がDriving Forcehttp://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.6b03247

分散力がDriving Force (これは次元が力)http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.6b03560

 

そもそも言葉は使われるうちに適用範囲が広がってしまうもので、流行語なんかはすぐに色んな文脈で使われて死んでいくわけですが、学術論文でこういう言葉が使われてしまうのは何とも言い難い気持ちに。

言葉の使用の際には少しだけ気をつけたいなという話でした。特に面白いオチは無い。

 

おまけ

 

で、この論文に触発されて追い打ちをかけるように賛同の言葉が寄せられてたりします。

No "Driving Forces" in General Chemistry

http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ed083p702.2

 

あんまり使わないほうがいいんじゃないですかね、この言葉。

SCFの収束

SCFの収束の悪い系を扱っている。デフォルトだと間違ったエネルギー値が得られる。エラーが出ないので気づくのに相当時間を要した。

qcオプションは多くの場合よく動くのだが、たまにエネルギーが高い状態のまま収束して偽の解を与えてしまう。scf=(xqc, maxconventionalcycle=10)くらいにして一度デフォルトのアルゴリズムでエネルギーを下げて、そこからqc, vtlで動かすと上手く行っている。忘れないようにメモ。

研究指導の反省

学部生を指導する事になった。

 

学部生の時に研究室であまり技術指導を受けた事が無かったので、何を教えればいいのか分からずかなり戸惑っている。学生時代は本や論文を読んだりして自己流の実験をせざるを得なかった(しかし基本的な反応ばかりなので、何をやっても8割方上手く行ってた。手痛い失敗をしたのはBuchwald-Hartwigぐらいか)。

 

しかしながら今回は放置する訳にはいかない。院生ではないから基本テクが無いというのもあるが、何より対象となる化合物が酸・塩基・光・酸化剤に不安定であるため、ちゃんと指摘しないと絶対にうまくいかないからである。

仕方ないので試薬を入れる手順から器具の乾燥法など、一から十までつきっきりで教えている。自分の実験もしつつだけど、デスクに張り付いていられないので計算が回せない。原稿が書けない。

で、焦燥感に駆られてきついスケジュールの中で実験をしていたら、蒸留精製の際に安定剤を入れるのを注意し忘れて全滅してしまった。加熱でもぶっ壊れるのである。忘れてた。余裕が無いとミスをするのである。折角学生が頑張ってくれたのに俺の指摘忘れで全滅はお互いショックがデカい。

 

他人に物事を教えるとなると自分がやる場合の3倍は時間使うし、ポカした際の罪悪感は大きいよねという話であった。忘れないように記しておく。オチは無い。