基底関数雑感2
カルボカチオンの出て来る系を扱っている。
モデルを使ったCCSD(T)/aug-cc-pVTZのエネルギーとの比較ではM06HF/def2-SVPPが最もコストパフォーマンスの良い汎関数/基底関数であることがわかったのだが、これまでにAhlrichの基底系をしっかり試したことがないのでいまひとつピンとこない。超共役による結合の伸長や結合角の変化をしっかり表現できるか気になる。
元文献(http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2005/CP/b508541a#!divAbstract)を読む限りではdef2-SVPPなら炭素にもプロトンにも分極関数がしっかり入ってるので大丈夫な気がするのだが、不安が残る。
そこでエチルカチオンをモデルとして基底関数をチェックした。
使用した汎関数はB3LYP。基底関数はSTO-3G, 6-31G, 6-31G*, 6-31G**, 6-311+G(2df,2p), SV, def2-SV, def2-SVP, def2-SVPPの9種。気相中での構造最適化を行った。
小さい基底関数であるSTO-3G, 6-31G, SVではCS対称な構造が、それ以外ではC2V対称性のある橋架け構造が得られた。結合長は以下の通り。
Fig 1. STO-3G, 6-31G, SVで得られた構造
結合長[1]-[2]
STO-3G: 1.15Å
6-31G: 1.14Å
SV: 1.15 Å
FIG 2. その他で得られた構造
結合長[1]-[2]
6-31G*: 1.32Å
6-31G**: 1.32 Å
6-311+G(2df,2p): 1.32 Å
def2-SV: 1.33 Å
def2-SVP: 1.32 Å
def2-SVPP: 1.33 Å
流石に小さい基底系を使うと非古典的な構造を表現できない。しかし結合の伸長を結構表現できていて驚いた。炭素に分極関数を付与すれば水素上の分極関数の有無によらずきちんと非古典的カルボカチオンを表現できる。また、分極関数のあるものについては、結合長を見る限りでは構造の表現に関してはほとんど変わらない。構造最適化に使う基底系として6-31G*が推奨されるのも納得がいく。構造が近いのであれば、反応前後のエネルギー差をしっかり記述できる基底関数を利用して信頼に値する計算ができる。