季節を彩る基底関数

最近使った基底関数の話題。

有機化学界隈だと、基底関数というと一般的にsplit valence基底系、特にpopleの6-31Gなどがメジャーで、信頼できる魔法の呪文「B3LYP/6-31G」の一部みたいに考えられているような節があるが、Correlation-consistent基底系(cc-pVXZ)も負けず劣らずかなり有用であるし、実際にめちゃめちゃよく使われている。

で、その有用なCorrelation-consistent基底系だけれども、そのままだと軌道の広がりの表現に不十分なところがあるので、pople基底系と同様にdiffuse関数をくっつけて更に空間的な広がりをもたせてやるわけです。しかしながら、aug-をつけて拡張すると全部の原子にdiffuse関数がどっさりくっつくので計算が重くなるのが弱点。最近自分が行った計算だと、cc-pVDZをaug-cc-pVDZに変えたところエネルギー1点計算の時間が5倍に増えていた。

 

そんな中で、この厄介ながらも重要な要素であるaug-オプションを、もうちょっとdiffuse関数減らして使いやすくしてやろうという感じで新しい基底関数が開発されてたわけである。初出はもう5年近く前の論文だけど、Gaussian09に実装されたのはバージョンD.01からなので割と最近解禁。

 

それがTruhlarの「カレンダー」基底関数系。元々使われていたaug (augmented)をAugustと見立てて、8月以前の月の名前を冠した基底関数である。diffuse関数が少ない方から順にApr-cc-pVXZ, May-cc-pVXZ, Jun-cc-pVXZ, Jul-cc-pVXZとなっていて、段階的にAug-cc-pVXZに近づいて行く。桜散る春から向日葵の咲く8月までをイメージしてるかのような名付けかた。元論文はこちら。

"Perspectives on Basis Sets Beautiful: Seasonal Plantings of Diffuse Basis Functions"

http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ct200106a

 

Gaussian 09のサイトでも簡潔に紹介されてる。日本語版だと更新がまだみたい。

Basis Sets

 

M06-2X/Apr-cc-pVTZとか使うと「2006年、2X歳だったあの若かりし春の日」 みたいな、無駄なエピソードが思い浮かんだりする。あの頃20代だったかどうか記憶が定かじゃないが。

 

これ以降にもどんどんリリースしてカレンダーを埋め尽くしてもらいたい所存。まあ8月以降はaugより重くなる訳ですが。使い心地は後でレビューしたい。